部下の大失敗。そのとき経営者の器が問われる。
部下の大失敗。そのとき経営者の器が問われる。
人は、失敗したときにこそ、相手の本当の姿を見るのかもしれません。
先日、興味深いエピソードを目にしました。
実業家の前澤友作さんのもとで、美術品の買い付けを担当していた部下が、なんと5〜6億円もの美術品を誤って購入してしまったという話です。
部下は、クビを覚悟して前澤さんに報告したそうです。
ところが、前澤さんの返答は意外なものでした。
「もしかしたら好きになるかもしれないから、一応写真送っといて」
その後、何度も写真を見たうえで、
「何回も見たけど好きになんないわ(笑)」
と返したそうです。
そして、部下を責めることも、お咎めもなかったといいます。
このエピソードについて、記事では箕輪厚介さんが、失敗を責めるのではなく笑って受け入れたことで、部下は「一生ついていこう」と思うのではないか、と語っています。
私は、この話を読んで、小林正観さんが大切にされていた「受け入れる」という考え方を思い出しました。
もちろん、受け入れることは、失敗を放置することではありません。
損失への対応も必要ですし、原因を確認し、再発防止を考えることも大切です。
しかし、そこで忘れてはいけないことがあります。
それは、失敗した人そのものを否定しないことです。
人は、なぜ失敗を隠してしまうのか?
部下がミスをしたとき、子どもが何かを失敗したとき。
私たちは、つい「なぜ早く言わなかったの?」と思うことがあります。
けれど、少し立ち止まって考えてみたいのです。
なぜ、すぐに相談できなかったのでしょうか。
もちろん、理由は人それぞれです。
ただ、その背景には、こんな心理が隠れていることがあります。
- 怒られるのが怖い。
- がっかりされるのが怖い。
- 信頼を失いたくない。
- 能力がないと思われたくない。
- 期待されなくなるのが怖い。
- 自分の居場所がなくなるのではないか。
つまり、人は失敗そのものだけでなく、失敗した後の人間関係を恐れている場合があるのです。
過去に失敗を厳しく責められた経験があれば、次に何かが起きたとき、正直に報告するよりも、隠したり、一人で何とかしようとしたりするかもしれません。
その結果、小さなミスが報告されず、気づいたときには大きな問題になっている。
これは、職場でも家庭でも起こり得ることです。
失敗する前に、相談できる関係をつくる
そして、私がさらに大切だと思うことがあります。
それは、失敗してから報告してもらうのではなく、失敗になる前に相談してもらえる関係をつくることです。
大きな問題になる前には、小さな違和感や心配の芽があるものです。
- 「ちょっと気になることがある」
- 「このまま進めて大丈夫だろうか」
- 「実は、少し困っていることがある」
そんな小さな声を、気軽に出せる環境があるでしょうか。
もし、相談しただけで怒られる。
能力がないと思われる。
面倒な人だと思われる。
そんな不安があれば、人は相談をためらいます。
そして、小さな心配を一人で抱え込み、やがて大きな問題になってしまうこともあります。
だからこそ、経営者や上司に必要なのは、問題が起きたときだけ対応することではありません。
「何かあったら、いつでも相談していいよ」
その言葉が、日頃の態度や行動でも伝わっていることが大切です。
- 相談してくれたこと自体を、まず受け止める。
- 答えを急がず、一緒に考える。
- 小さな心配の段階で声を上げてくれたことを、むしろ歓迎する。
そうした積み重ねが、問題を早く発見し、解決できる組織をつくっていくのだと思います。
親としても、同じことが言える
これは、会社だけの話ではありません。
親と子どもの関係にも、同じことが言えます。
子どもが失敗したとき、親は心配になります。
つい叱ってしまうこともあるでしょう。
「どうして、そんなことをしたの?」
「だから、言ったでしょう」
その言葉の奥には、子どもを思う気持ちがあるのかもしれません。
けれど、子どもがその言葉をどう受け取るかは、また別の問題です。
- 失敗を話したら怒られる。
- 親をがっかりさせてしまう。
- もう信用してもらえない。
そう感じるようになると、子どもは失敗を隠すようになるかもしれません。
だからこそ、失敗したときだけでなく、失敗するかもしれないと不安になったときにも、安心して話せる親でありたい。
「何かあったら、いつでも話してね」
その言葉を、日頃から伝えておきたいものです。
そして、子どもが話してくれたら、まずは耳を傾ける。
すぐに正解を教えようとせず、一緒に考える。
失敗しても立ち上がれるように支えてくれる親でありたい。
そう思うのです。
「失敗しても、ここに居場所がある」
経営者も、親も、人を育てる立場にあるという点では共通しています。
もちろん、失敗の責任を曖昧にしてはいけません。
- 必要な指導はする。
- 原因を一緒に考える。
- 次に同じことが起きないようにする。
しかし、人を責めることと、問題に向き合うことは違います。
問題には厳しく向き合う。けれど、人の存在まで否定しない。
そして、失敗を正直に報告してくれた勇気まで否定しない。
私は、そんな関係を築いていきたいと思います。
大切なのは、失敗しない人を育てることではありません。
失敗しても、もう一度立ち上がれる人を育てること。
心配になったとき、気軽に相談できる。
失敗したとき、正直に話せる。
そして、どんなときも、自分の居場所があると感じられる。
「失敗しても、ここに居場所がある」
この安心感が、人を育て、信頼を育てるのではないでしょうか。
部下にも、子どもにも、伝えたい。
失敗を隠さなくていい。
心配を一人で抱えなくていい。
小さなことでも相談していい。
そして、失敗しても、あなたの価値は変わらない。
人を育てるとは、失敗をなくすことではない。
失敗を恐れずに挑戦し、困ったときには声を上げ、失敗した後も前を向ける人を育てることなのだと思います。
最後に、一つ問いかけてみたいと思います。
あなたの部下や子どもは、失敗する前の小さな心配を、安心して相談できるでしょうか。
そして、失敗したときにも、正直に話してくれるでしょうか。
その答えの中に、私たち自身の人との向き合い方が表れているのかもしれません。